武具展が物語るチベットの美術と宗教

 チベットはかつてイギリスの支配下にあった。その縁でチベットの高僧からの贈り物としてイギリスに渡った武具が多いという。今回の展示会でも、大英博物館スコットランド王室博物館、リバプール国立博物館など、イギリスの博物館の協力が大きい。

NIKKEI NET 2006年4月21日
 ニューヨーク市メトロポリタン美術館で「ヒマラヤの戦士達―チベットの武具・鎧甲(よろいかぶと)を再調査」と題した企画展が始まった(会期は7月2日まで)。チベット高原で13世紀から20世紀半ばまでに使用されてきた武具を135点展示している。チベットの武具に焦点を当てた展示は世界でも例がなく、市民の間で静かな話題となっている。

 チベットの武具には、強さの象徴とされる竜の彫刻が施されているものが多いのが特徴。また密教の「曼荼羅(マンダラ)」をイメージした鮮やかな色合いの布地を使った馬具も多いなど、仏教色を映している。戦う道具であると同時に、地位や高僧に対する忠誠を示すことも武具の大きな役割だった。

 それぞれの展示品には、時代背景を交えた丁寧な解説が添えてある。それらを読み進むうちに、独立を守るために戦争も余儀なくされたという、チベットの歴史を知ることもできる。

 この企画展は同美術館の学芸員、ドナルド・ラロッカ氏の強い働きかけで実現した。同氏は西洋以外の武具を研究している。チベットの武具を集めようと思いたったが、あまりにも情報が少なく収集に苦労した。企画展の開催にこぎ着けるまでに、約10年の歳月を要した。

 チベットはかつてイギリスの支配下にあった。その縁でチベットの高僧からの贈り物としてイギリスに渡った武具が多いという。今回の展示会でも、大英博物館スコットランド王室博物館、リバプール国立博物館など、イギリスの博物館の協力が大きい。

 オハイオ州から観光で訪れていたアリシア・トンプソンさんは「装飾や彫刻がすばらしい。職人の技が生かされている」と見入っていた。専門家の立場から見ても珍しい展示品が多いそうで、今後、チベット武具に関する研究が深まるきっかけにもなりそうだ。

 (ニューヨーク=蔭山道子)